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1日50万件の情報で企業の違反フラグを把握。焼却炉から水素製造。スイスで広がるESGビジネス

スイスにはESG経営領域のサービスや知見を提供する企業や研究機関が数多く集積し、独自のエコシステムが生まれています。その魅力を伝えるセミナー「スイスを活用したESG経営」が、2022年10月、東京・駐日スイス大使館で開かれました。その一部をご紹介します。

セミナーではまず、高津尚志・IMD東アジア代表が、「企業の新たな世界戦略に、スイスがいかに貢献できるか」をテーマに、ESG経営を支援する同国の魅力を紹介しました。

IMDが毎年発表する主要ビジネス系ランキングのトップクラスの常連で知られるスイスですが、ESG経営に関する活動も盛んです。

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持続可能な企業戦略作りを進める企業幹部のアライアンス「Swiss Boards for Agenda 2030」や、世界企業約200社で作る「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」など、ネットワークや知見が蓄積がも集まっています。IMDでもWBCSDと連携し、持続可能な事業を担うリーダーの育成プログラムや“Leading Sustainable Business Transformation”などの短期プログラムも用意しています。欧州の主要ビジネススクールとともに気候変動の調査研究教育「Business school for Climate」も運営しています。

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高津氏は「ESG経営というテーマは、出来合いの答えのないテーマ。となると、答えが生まれる環境に身を置く意味は大きい。最先端の知に常にアクセスできる環境や創造的な対話を通じ、自ら知の進化にかかわれる。自然豊かな地域で、人間のありよう、生き方を考えながら経営に関われる、という意味でも、とても魅力のある国だと思います」と語りました。

1日50万件の情報処理でESG経営の「足元」を把握

データプロバイダーと呼ばれるESG関連のデータ供給企業は現在、世界に200社以上あるといわれています。その最大手でスイスに本拠があるレプリスク日本法人の久世素子さんが、企業のESGリスクを体系的に特定・評価する自社のESGリスクデータベースとその活用方法を解説しました。

ESG関連データの評価の元になる情報のリソースは大きく分けて二つ、と久世さん。一つは、企業のCSR報告書などの開示情報。もう一つは第三者機関が独自に集めた情報。同社の場合「企業の開示情報には一切頼らず情報を集めている」(久世さん)。同社のESGアナリスト約120人とAIをかけ合わせ、毎日50万件の情報を分析しています。「今、足元で起きているESGリスクを把握するのに役立っている」。企業が積極的に開示しない情報も含んでいるため、実態の伴っていない企業の環境対策(グリーンウォッシュ)のリスクも「軽減できる」といいます。

同社では、2007年以降のネット上の関連データを全て蓄積、世界中の国の様々なセクター約21万4000社の膨大な企業情報を蓄積、これまで大手投資顧問会社、S&P、NASDAQ、国連機関も含め、500を超す組織に提供してきました。

さらに同社の独自指標「RepRisk Index」で企業をレーティングし、過去の出来事から将来の展望まで、「国連グローバル・コンパクト」の10原則で一つでも違反しそうなリスクがある企業には、「違反フラグ」を立てリスク監視を強化しているといいます。

日本企業が手がけるイノベーション

スイス製品の輸出促進や日本企業の進出支援を担当するスイス・ビジネス・ハブの松田俊宏投資促進部長は、同国でESG関連の事業を展開している日本企業を紹介しました。

「サクセスストーリーと言っていい事例」として、松田氏が挙げたのが日立造船イノバ社。同社は、もともと日立造船が2010年にスイスイノバ社を買収して誕生した日立造船の子会社で、チューリヒを拠点に欧州の焼却炉製造ではシェア40%を超えています。2022年4月から、ごみ焼却炉で発電した電力を利用して、水素を製造するプロジェクトに着手しています。水素はスイスのガス事業会社の Messer Schweiz AG が買い取り、産業用途および地方公共交通機関や自家用車の燃料に使われる予定で、年間供給量は約200トン。水素自動車が約2000万キロ走行する量に相当するといいます。

ほかに、バーゼルの有機ELパネル材料の開発企業を独企業から引き継いだ出光興産の事例など、スイスの立地や資源を生かし、成長している日本企業事例も紹介されました。

関連情報

スイス・ビジネス・ハブ

輸出促進部 [email protected] 電話番号:+81 (0)3 5449 8434

投資促進部 [email protected] 電話番号:0120 844 313