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その株主要求、目的は正義?利益?

気候変動やジェンダー平等といった社会課題への取り組みをめぐり、企業に投資家らが対応策や情報の開示を求めるケースが相次いでいます。ファイナンスが専門のSalvatore Cantale 教授を講師に招き、関連のケースを想定したシュミレーションを行いました。

投資会社から、コンサルティング企業に手紙が届くところから始まります。「環境に悪影響を与えかねない事業を計画しているセメント会社の社長は、御社の取締役の一員でもある。おかしいのではないか?」。役員はこの手紙の指摘にどう対応するべきなのでしょうか。やりとりの一部を再録します。

「取締役解任」を求める手紙

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Salvatore Cantale ファイナンスが専門戦略ビジネスモデル財務が交わる領域に加えESG政策がサステナビリティと財務に与える影響も研究

Cantale教授:今日の講演では、投資会社の役割や仕組みについて皆さんに理解して頂くために、実際のケースを下敷きにした、セッションをします。

【登場する3社】

コンサルティング会社:環境や社会に優れた取り組みを行う企業とのみビジネスを行っていることを誇りに思っている。

投資会社:ESG(環境、社会、ガバナンス)の観点でよくない行動をとる投資先企業に働きかけをしている。セメント企業への投資は2020年から開始。

セメント会社:スウェーデンでの工事に参画。この工事で800万haの森林が破壊され、河川が汚染される可能性も。同社社長はコンサルティング会社の取締役も務めている。

【投資会社からコンサルティング会社に届いた手紙】(要約)

セメント会社について、いくつか提言をお示しします。

同社はサステナビリティに積極的に取り組んでいると公言していますが、スウェーデンで計画されている事業が与えうる環境への悪影響は、同国の環境保護庁と世界保健機関(WHO)が定める基準を超えており、ESGに反し、グリーンウォッシュを促進するものであることが当社の収集したデータ(添付資料)により裏付けられています。

本件について、御社のウェブサイト等のプラットフォームで発信して頂くとともに、御社の役員会にセメント会社のCEOが在籍していることの是非を審議することを求めます。

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Cantale教授:投資会社は、関係企業がESGに反する行動をとったとき、その企業の株をすすんで購入することがあります。そして株主総会に出て意見を述べたり、またより踏み込んだ行動をとる場合もあります。

今回のケースでは、スウェーデンで事業を計画しているセメント会社の株式を、投資会社が購入しています。そして、このセメント会社のCEOが取締役に就いているコンサルタント企業に手紙を送り、この事業への指摘と、なんらかのアクションを起こすよう求めています。

皆さんがコンサルティング会社の取締役会の一員ならどうするか。次の点を話し合っていただきたいと思います。

・投資会社からの手紙にどう対応するか?他の取締役と共有すべきか?

・不正の疑いがあることを知った今、コンサルティング会社の取締役会にはどのような責任があるのか?

・セメント会社CEOが取締役であることは、コンサルティング会社にとってリスクとなるのか?

・投資会社がコンサルティング会社にこのような問題提起を行うことは適切か?

投資会社の真の意図とは?

この後、この手紙を受け取った後の対応をグループで話し合いました。

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Cantale教授:討論での意見を発表して頂ける方は?

参加者:まずは投会社からに礼を述べ、事実確認を急ぐこと、また取締役会に所属しているセメント会社CEOの存続の是非についても確認すると伝えます。また、外部からの意見を積極的に取り入れる社風であること、本件にまつわるリスクを過小評価せず、監査などが入る前に対策を講じるつもりであることも伝えます。

参加者:Muller氏と本件についての情報を共有します。

Cantale教授:情報を共有するかどうかについて、何か意見のある方はいますか?

参加者:すぐには共有せず、まず調査します。調査しますが、セメント会社社長との契約はすぐには切らず、様子を見ます。

参加者:調査するべきだと思います。投資会社がこの手紙を出版社に持ち込んで公表される可能性もありますし、セメント会社CEOについて対応しないことは大きなリスクを伴います。

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Cantale教授:では、ここで私から。なぜ投資会社はセメント会社の株を持っているのでしょうか?真の意図は何でしょうか。

このケースでは、投資会社はセメント会社の株主総会で意見を言えるだけの株式を保有しています。普通は株主総会に出て意見するのが一般的でしょう。

しかしこの対応はベストな方法とは言えず、むしろ今回投資会社が取ったやり方が賢明だと言えます。

セメント会社はESGを意識すればより事業を拡大できる可能性があります。そこで、かかわりのあるコンサルティング会社に働きかければ、セメント会社は業績が上がる可能性があります。すると株主の投資会社は利益を手にできますよね。

投資会社がここまでセメント会社に興味を持つ真の理由は、環境破壊への問題提起というより、この件を利用してどのようにお金を稼ぐか、ということでしょう。

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Cantale教授:なぜ私がここまで断言できるのか、と思う方もいらっしゃるでしょう。

それには証拠がありますが、その前に、思い出してください。皆さんの多くは、手紙をセメント会社CEOと共有することをしましたね。これは透明性の点からもよい選択でしょう。

しかし注意すべきは、取締役会で手紙の件を共有した後、セメント会社CEOにその場で説明を求めず、次回の会議に回すのが得策だ、ということです。

誰しも、突然予想していなかった質問を会議中に投げかけられるのは、いい気持ちにはなりませんから。

セメント会社CEOだって、自社の技術的なことまで把握しているわけではありません。時間をもらえたら、次回の会議までには会社側の求める回答を用意してもらうことができるでしょう。

ではどんな調査をするべきか。

第一に、セメント会社のしていること自体は違法ではないことに着目する必要があります。

投資会社が添付したデータ資料からは、この事業やセメント会社の違法性ではなく、環境に良くない影響を与えるだろう、ということは分かります。しかし、そもそもセメント会社の事業というものは、えてして環境に悪影響を与えざるを得ないものではないでしょうか。

つまり、断言できないものの、セメント会社のプロジェクトを調べたところで、意味のある結果は得られない可能性もあります。

また、本件に関してコンサルティング会社の取締役会の責任はあるでしょうか。これについては皆さんどう思いますか?

参加者:一見して取締役会に責任はないように思えますが、コンサルティング会社の評判を落とす可能性があるので、私ならミュラー氏には取締役を辞任してほしいと考えます。

Cantale教授:なるほど。社会に正しく貢献していない会社のCEOが取締役会にいることは、コンサルティング会社にとって本当にリスキーなことなのでしょうか?

新しい役員を雇う際、その人がどんな能力を持っているのか、なぜそれが雇う理由になるのかをはっきりさせる必要があります。

先に述べたように、セメント会社のような、他の産業よりも環境への影響が大きくならざるを得ない産業は確かにあります。ただ、大事なのは、業界他社と比べて、その企業が環境や社会への影響を配慮するよう努力しているかどうかなのです。

もしセメント会社がすでに環境に配慮した事業へと舵を切り、製造工程での二酸化炭素排出量を削らすべく改善に取り組んでいるのなら、CEOが取締役会のメンバーでいることは、よいことではないでしょうか。

ここで、コンサルティング会社が投資会社に2週間後に送った返信をお見せします。

【コンサルティング会社から投資会社への返信】

当社の見解としては、セメント会社には問題はないと考えています。スウェーデンでのプロジェクトが内包する科学的、技術的な事実については、すでに認識していますが、環境負荷を低減させる努力がされており、持続可能な社会のための大胆な手段が講じられています。

また、プロジェクトはEUおよびスウェーデン政府の規制を完璧に遵守しており、規制当局の定期的な監視が行われると存じます。

Cantare教授:皆さんはこの返信を読んでどう感じたでしょうか。スウェーデンの環境に関する規制は厳しいという点が重要です。コンサルティング会社は、セメント会社の工事が、EUとスウェーデン政府の規制をしっかり遵守していると確認しています。

 

参加者:しかし、規則に則っているから問題ない、ということを前面に出しても良いのでしょうか?

Cantare教授:規則を守っていればすべてが許されるわけではないですが、この場合規制の基準を満たしていることを示すことは効果的でしょう。もし回答が「セメント会社CEOと話して、問題がないと確認したので調査は特に行わない」という内容だったら、問題ですが。

ESGの「G」が標的になる理由

Cantare教授:これまでの文献調査や研究から、なぜ投資会社がなぜこんなことをしているのか、という問いへの答えが示されています。

まず注目すべきは、このような対象となるのは、一般的に業績の悪い会社だという点です。こうした企業は改善の余地が大きいため、利益を得られる可能性が大きいからです。

業績の悪い会社が、ROA(総資産利益率)が極めて低い場合、それは基本的には事業戦略の効率が悪いことを意味します。もし改善できれば、その度合いも大きいものになるでしょう。

では、投資会社が業績の悪い企業の成長を促す動機は何なのでしょうか。世界をより良くするためでしょうか?

いえ、まずは自社の利益を得るためです。そして、うまくいけば世界をより良い方向に変えられる、とも考えています。

ただ、企業のこうした変革には非常にコストがかかるものです。つまり、不当な事実があると騒ぎたてるだけでは不十分であり、正すべきことは実際に正していく姿勢が必要なのです。

加えて、ESGのG(ガバナンス)に手を加えることが近道と言えます。なぜかというと、効果が分かりやすいからです。影響が大きいのはその会社のCEOにアプローチすることでしょう。一方、E(環境)やS(社会)に関する変化はやや難しくなります。

このシュミレーションは、実際に起きた事例を下敷きにしていますが、このモデルとなった企業は、大企業とは言えませんでしたが、しかし、この事例のような件で、1年半後に大きな利益を得ることができたのです。

※2023年5月、東京で開かれたIMDのアルムナイクラブでのセッションの様子から一部をご紹介しています。

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