- IMD Business School

買収後の組織統合を成功させた
"magic middle"の力

対談:Manzoni IMD学長×サントリー新浪CEO

 

最近、日本では管理職の人気が今一つです。「管理職になりたい」と答えた日本人の割合は19.8%で対象18カ国で最下位。パーソル総合研究所の調査(2022年)で、そんな結果も出ています。他方、管理職の存在は、 知識創造理論の世界的な権威として知られる野中郁次郎一橋大学名誉教授によって組織変革のエンジンの役割を果たす「ミドル・アップダウン・マネジメント」と理論化され、もともと日本企業の強みの一つとされてきました

米蒸留酒大手・ビーム社を2014年に買収したサントリーでも、買収先の組織統合と文化変革を推進したのは、中間管理職でした。新浪剛史サントリー社長とJean-françois manzoni IMD学長との対談で、「マジック・ミドル」とも称された、中間管理職の影響力を理論と実践の両面から探りました。  

※動画対談と過去の記事などをもとに再構成しました。 

 合併で生まれた世界第三位の蒸留酒企業

飲料・酒類の世界市場に本格参入するべく、サントリーは2000年代に入ると、海外の飲料企業の買収でその布石を打ってきました。 

その象徴が2014年、「ジムビーム」で知られる老舗ビーム社の買収でした。 

1兆6500億円もの巨額を投じて生まれた新会社「ビームサントリー」は蒸留酒業界では世界3位。世界レベルのブランドと販路を獲得しました。 

同時に、サントリーは難しい局面に立たされます。 

一つは、負債。実質無借金経営だったサントリーは、多額の負債を抱えることになりました。もう一つが、国や社風の異なる組織の統合とガバナンスの確立でした。 

「魔法の中間管理職」が根付かせた「現場主義」 

 中でも組織の統合とガバナンスの確立は喫緊の課題でした。2016年、ビーム社の経営陣への不満から、生産拠点のひとつでストライキが起きるなど、経営陣との摩擦も生じていました。 

サントリーがとった策の一つが、ビーム社の製造や営業の現場に、サントリーの中間管理職を送り込むことでした。 

なぜ、中間管理職だったのでしょうか? まずは理論的なアプローチから。 

中間管理職が中心となって組織経営を行うマネジメント手法は「ミドルアップダウンマネジメント」と呼ばれます=下図参照。 

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ミドルアップマネジメントの概念図=一條和生IMD教授作成

 

中間管理職の役割を再定義し、その重要性を早くから提唱してきたのが、野中郁次郎・一橋大学名誉教授です。 

「知識」という切り口から日本企業の強みを分析した共著「知識創造企業」(1995年)では、知識を生み広め、製品やサービス、システムに具現化するプロセスでの中間管理職の役割に着目。「ミドル・アップダウン・マネジメント」という名前で提唱しました。 

企業トップが描く壮大な理論(grand theory)と、現場の従業員が経験する現実(reality)との間には、しばしば矛盾(contradiction)が生じます。ここで両者を結び、理想と現実から新たなものを生み出す、中間管理職の価値を再定義したのです。  

「ミドルは、トップと第一線マネジャーを結び付ける戦略的『結節点』となり、トップが持っているビジョンとしての理想と第一線社員が直面することの多い錯綜したビジネスの現実をつなぐ『架け橋』となるのである。(中略)彼らは知識創造企業の真の『ナレッジエンジニア』なのである」(知識創造企業 第五章2「ミドル・アップ・マネジメント」) 

「中間レベルのビジネスコンセプトや製品コンセプトを創ることによって、『こうであるという現実』と『こうあるべきだという理想』を仲介するのである。彼らは現実を創り変える―別の言い方をすれば、会社のビジョン(理想)にしたがって新しい知識を工夫しながら創り出すのである」(同、4「ナレッジ・クリエイティング・クルー」) 

サントリーとビーム社の統合でも、中間管理職が重要なカギを握りました。 当時の狙いを、新浪社長はこう語ります。  - IMD Business School

新浪社長:中間管理職は上級管理職と一般社員の橋渡し役となり、変革を推進する立場にもなります。派遣された中間管理職はビーム社の文化の変革を推進しました。(中略)現場に派遣された中間管理職は、従業員たちをサポートすると同時にサントリーのメッセージを伝えました。「ビジネスの創出と継続には、本社よりも君たちが不可欠な存在だ」と。 

そしてサントリーの徹底した現場主義も、中間管理職を通じてビーム社に根付かせようとしました。 

新浪社長:営業や製造といった「現場」に中間管理職を送りました。現場の地位は、本社よりも重要なのです。というのも、そこで消費者と直に触れあい、質の良い製品が生まれるからです。現場でのこうした努力なしに、利益は得られませんし、事業も続けることはできません。だから(本社と現場の)地位を逆転させるべきなのです。現場に派遣された中間管理職は、従業員たちをサポートすると同時にサントリーのこうした価値観を伝えました。「ビジネスの創出と継続には、本社よりも君たちが不可欠な存在だ」と。(中略)でも、これが私たちの価値観なのです。 

新浪社長の話を受け、Manzoni学長は”magic middle”(魔法の中間管理職)という言葉で、中間管理職の力を言い当てました。 

Manzoni学長:ある人は中間管理職を「永久凍土」呼ばわりしていましたが、ある人は「マジックミドル」だと言っていました。確かに中間管理職は岩と岩の間に挟まれて身動きがとれないことがありますが、魅力的なビジョンと権限を与えられたら、素晴らしい成果を上げられるのです。 

この指摘に「我が意を得たり」とばかり、新浪社長も応えます。 

新浪社長:まさにそういうことが起こったのです。東京から派遣した中間管理職は大事な役割をはたしました。組織の統合を成功させるために欠かせない存在でした。彼らがはたした役割はとても大きかったと思っています。 

買収から8年後の2022年12月期決算で、ビームサントリー社は過去最高の売上を達成。シカゴからニューヨークに本社を移し、2023年10月からは買収後3人目の新社長が就任しました。2022年の同社の従業員エンゲージメントは89点と、サントリーのグループ各社の中でも高いスコアを出しています。同社を含め、サントリーの売上収益に占める海外比率は半分(51.1%)を超えました。

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