【事例】「サステナビリティ」で変革。5企業の実践

日経フォーラム「第25回世界経営者会議」のセッションから

11月7、8日、日経フォーラム「第25回世界経営者会議」が東京都内で開かれました。IMDが主催者として企画・進行した5つのセッションを、「サステナビリティ」「組織変革」「リーダーシップ」の切り口で振り返ります。

シュナイダー会長「サステナビリティを戦略の核に」

ジャン=フランソワ・マンゾーニ学長をモデレーターに、仏企業シュナイダーエレクトリックのジャン=パスカル・トリコワ会長が登壇。20年前、いち早くサステナビリティとデジタル化を軸にした事業再編に取り組み、産業ソフトウェア、サステナビリティ、デジタル化、電化をリードする世界企業へと移行した軌跡を振り返りました。

現在、同社の事業はデジタル関連事業が45%を占め、70%がサステナビリティ関連のソリューション事業です。企業規模は20年前の4倍、約13.5万人の従業員を擁する企業に成長。一連の取り組みが評価され、2021年「世界で最も持続可能な100社」で首位に。

「多くの企業はサステナビリティを戦略の脇に置くが、私たちは戦略の核に据えた」とトリコワ会長。サステナビリティをパーパス、ミッション、戦略、事業でのインセンティブと連動させた点を強調しました。

事業ではデジタル化と電化を軸に展開。IoT、ビッグデータ、産業メタバース、AIなど最新のデジタル技術を活用したエネルギー管理と自動制御の最適化で、効率的かつ環境負荷が少ない運用に切り替え、化石燃料への依存を減らしたソリューションを提供しています。
「持続可能性の向上は効率の向上から始まると実証できた。単なる技術的進化にとどまらない。持続可能な経済と社会のための基盤を提供している」と強調しました。

また、1990年代に駐在した中国、アフリカでの経験を振り返り「(現地の生活で)エネルギーは生活を送るための『パスポート』だと実感した。一方でエネルギーの開発は環境に負荷がかかる。ならば、少ないエネルギー資源で多くを達成するソリューションを提供しようと考えるようになった。適切なパートナーを選び、事業にサステナビリティを叩き込む。 シュナイダーは、この2つがうまくいっている」と語りました。

ソルベイCEO「サステナビリティと収益性を両立」

ベルギーの化学大手ソルベイのイルハム・カドリCEOとマンゾーニ学長とのセッションでは、サステナビリティに基づいた事業の再編強化について討論しました。

同社はベルギー・ブリュッセルを本拠に世界50カ国以上に展開する大手化学メーカー。2019年同年策定のサステナビリティ戦略「ソルベイワンプラネット」で、気候、資源、より良い生活の3つの領域に投資を集中する取り組みを進めています。

取り組みの一つとしてカドリCEOが紹介したのが、社内炭素価格(インターナルカーボンプライシング:ICP)の引き上げ。二酸化炭素(CO2)の社内取引価格を、相場より高い、1トン当たり50ユーロから1トン当たり100ユーロに引き上げることで、より低炭素な事業に移行するインセンティブとして活用しています。

「ワンプラネット」に基づく一連の取り組みと、事業の収益性の両立について問われたカドリCEOは「サステナビリティと収益性の両立は可能」と強調しました。「持続可能性の取り組みをやりすぎて収益性が下がってるわけではない。社内のカーボンプライシングでインセンティブを与え、持続可能性のプロジェクトをボトムアップでやれているのはワンプラネットという包括的なプログラムがあるからだ」

また同社は事業再編にも着手。2022年、基礎化学と特殊化学の事業を2つの企業に分割、上場する計画を発表しました。カドリCEOは「足かせを外して、全く異なる2つの企業体をつくり別の道のりを歩んで、株主へのリターンを確約させた方がいいと考えた」と説明しました。

ケッペルCEO「サステナビリティで収益を上げる」

シンガポールの政府系複合企業、ケッペルコーポレーションのローチンホアCEOは、同社が造船や海洋掘削設備の建設といった事業から、サステナビリティーを重視したインフラ開発に転換するまでを語りました。

商業施設「ケッペルベイタワー」の改修事業では、太陽光発電パネルの設置やエネルギー効率の高いビル管理システムなどの導入で、同国内の一般的なオフィスビルと比べて50%以上、エネルギー消費量を削減。シンガポール建設庁による、ゼロエネルギーの認証制度「グリーンマークプラチナム」を商業施設として初めて受けました。

「重要なのは、収益性がかなり高まったことだ」と、ローCEOは話し、維持コストが下がっただけでなく、改修後の賃料を通常の10~15%高く設定しても多国籍企業などの人気が高く、2019年と比べ、2022年のビル営業利益が31%増えたと述べました。「私たちは様々なサステナブルに関するソリューションを提供しているが、最終的にそれが顧客のネットゼロの目標到達を支援することにつながる。サステナブルは収益性のあるビジネスになり得る」と述べました。

サステナブル技術を事業に取り入れる際のバランスについて、ローCEOは水素エネルギーを例に「脱炭素化につながるエネルギーとして期待される一方、非常にコストがかかるので早く導入すればいいというものではない。すでに確立した技術の導入でエネルギー効率はすぐに改善できる。バランスを取ることが大切」と語りました。

パナソニックコネクト「3つの変革」が目指すもの

パナソニックホールディングス(HD)傘下でシステム開発を手がけるパナソニックコネクトからは、予定していた樋口泰行社長兼CEO(最高経営責任者)に代わり、山口有希子取締役が登壇。同社がすすめる組織文化、事業、オペレーションの変革について一條和生IMD教授と討論しました。

パナソニック出身で、外資企業での経営経験のある樋口社長が、東京への本社移転やすべての役員の個室廃止などに取り組み、フラットな組織作りを目指しています。山口取締役は樋口CEOが社員と同じ場所に座り、社員とフランクにコミュニケーションをとっている様子を語り、「リーダー自らが先頭に立ち、仕事のあり方や、お客様のためになる新しい働き方を社員に伝えている」と説明しました。

並行し、収益性を重視した事業ポートフォリオの再編成にも着手。その一環で、2021年に米国のサプライチェーンソフトウェア最大手「ブルーヨンダー」を買収しました。「ブルーヨンダ―の決断力や行動力、スピード感など学ぶことはとても多い。少人数で大きなプログラムを回していること、経営陣の戦略的な観点、グローバルな視点も学びになる」と高く評価。

組織文化の変革の意義について山口取締役は「大企業病からの脱却は健全なカルチャーを生む。健全なカルチャーがあるからこそ、ブルーヨンダーとの関係性が続く」と、買収との相乗効果を語り、最後に、「パナソニックコネクトが先陣を切っていろいろなことにチャレンジし、情報公開することで、他のグループ企業も社風が良くなったらいい」と、波及効果にも期待を寄せました。

三菱ケミカル初の外国人CEOが進める組織改革

三菱ケミカルグループのジョンマーク・ギルソンCEOは、組織の再構築と日本のリーダー像について高津尚志・IMD北東アジア代表と討論しました。

ギルソンCEOはベルギー出身。化学会社の経営者を歴任後、2021年4月に三菱ケミカルホールディングス(現三菱ケミカルグループ)に代表執行役社長兼CEOに就任しました。同社初の外国人社長として改革を進めてきたギルソンCEOは「これからの時代は地政学的リスクの見極めと、脱炭素化が重要だ」と強調しました。

グループ従業員数約7万人、連結売上高約5兆円の巨大組織。ギルソンCEOによると、M&Aを繰り返した結果、メールのドメインが5〜6もあるなど、コストの重複が目立っていたといいます。「投資に見合う収益を生んでいなかった」(ギルソンCEO)として、部門統廃合などを促進。その結果、目標を大きく上回る千億ドル規模のコストカットに成功したと言います。「『ホールディングス』 の形態が様々なレイヤーを生み、組織が非常に混乱していました。だからシンプルな組織に再構築しました」

また、外部人材も幹部に登用、疑問があれば声をあげ合う関係を構築し、縦割り組織を改めたといいます。「摩擦があれば火が起こり、議論が始まる。そこからアイデアが生まれ、組織が次のレベルへ進める」とギルソンCEO。
現在は全社員対象の「タウンホールミーティング」を月2回開き、業績共有の場にしていると紹介。社員が自ら変革を語る企画も考えていると話しました。

日本のリーダー像について「日本は目立ち過ぎる人が抑え込まれる」と指摘。決まったことを着実にこなす人材はリーダーではなく「マネジャー」であると指摘、「有能なマネージャーの中に、実はリーダーの素質を持った人がいる。 リスクを取ってリードできる人に任せることが大切」と述べ、自身の任期中に、将来のリーダー候補を見出し変革を引き継ぎたいと語りました。

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