技術と経営の「最先端」
スイスとIMDを再発見

スイス・ビジネス・ハブ日本事務所、IMD共催イベントより

スイスがイノベーションの最先進国である、という事実は意外と知られていない。テクノロジービジネス、宇宙開発……その手掛ける分野は実に幅広い。 

こうした側面をもっと広く日本のビジネスリーダーに知ってもらおうと、5月13日、東京・広尾のスイス大使公邸でSBH・IMD共催によるスペシャルイベントが催された。題して、「スイスとIMDの魅力を発見する〜技術と経営の視点から」

SBHはスイス経済省傘下の対外貿易・投資促進機関「スイス・グローバル・エンタープライズ(S-GE)」の東京代表部。在東京スイス大使館内にオフィスを構え、スイス企業の対日輸出支援、ビジネス・研究開発拠点としてのスイスに日本企業を誘致する役割を担う。

当日集まったのは日本を代表する企業の幹部、約70名。IMDのEMBA・MBAアルムナイ(卒業生)や、今後IMD留学を希望する人々、企業の人事・人材開発部門担当者などだ。

#写真左より ブラウン公使 /スイス・ビジネス・ハブ上席商務官のフォーゲルサンガー氏 /スイス イノベーション リレーションシップマネージャーのキーナー氏

 

最初に挨拶をしたのは、スイス公使のダビッド・ブラウン氏。スイスが競争力やイノベーションの世界ランキングで上位に名を連ねている点を挙げ、「日本とスイスがより緊密に協働することで、様々な分野の可能性をさらに広げていきたい」とコメント。

「ビジネスにおけるイノベーションには技術的な先進性だけではなく、市場の需要に見合った革新的プロダクトやサービスを具現化する能力が欠かせません。そこで鍵となるビジネスマネジメントと、特に宇宙開発を中心としたテクノロジー開発を本イベントのテーマとして取り上げました」

「テクノロジー面では、特に宇宙技術の分野で両国のコラボレーションの高い潜在性が見出せる。日本は小型月着陸実証機『SLIM』などで、すでに技術力の高さを証明しています」

「ビジネス面については、これまで数多くの日本のビジネスエグゼクティブやその候補生たちがIMDで学び、豊かな知見とインサイトを還元してくれている。今宵、我々の友情とパートナーシップを再確認し、さらに新たなチャンスを生み出せることを期待します」

次に登壇したのは、スイス・ビジネス・ハブ貿易投資促進担当上席商務官のミヒャエル・フォーゲルサンガー氏。「スイスの宇宙探査、と言ってもあまりピンとこないかも知れません。しかし、(初めて月面着陸に成功した)アポロ11号ではベルン大学が開発したソーラーセイル(太陽帆)の技術が活用された。1975年に創設された欧州宇宙機関(ESA)では、スイスは創設時からのメンバーです」

スイスが長年培ってきた、時計産業や機械工学の高い技術力。政府は2023年、「宇宙政策(2023 Space Policy)」を導入、スイス宇宙局をはじめとする様々な政府機関がこの分野のイノベーションに注力する。

もちろん、イノベーションは宇宙技術に限らない。特筆すべきは、スイス国内6カ所に設けられた「イノベーション・パーク」だ。産・官・学が一体となり、世界中から科学者や技術者を招聘。「モビリティ」「先進製造技術・マテリアル」「コンピュータサイエンス」「エネルギーと天然資源、及び環境」「健康及びライフサイエンス」の5分野で研究・開発を推し進める。

「オープンイノベーションは、まさにスイスのエコシステムなのです」(同氏)

続いて、チューリッヒのスイス・イノベーションパークでリレーションシップマネージャーを務めるファビエンヌ・キーナー氏が登壇。ロボット工学や自動運転、航空・宇宙技術、代替エネルギーなどに取り組む同パークについて詳しく説明した。

「インベンション(発見)からイノベーションへ −− インベンションを実用的なプロダクトやサービスに転化させることが、真のイノベーション。そのために欠かせないのは、学術界と産業界の壁を取り払うことです」

#左から ファーバー教授 ファルス ディレクター 高津代表

 

この後、高津尚志・IMD北東アジア代表が登壇。世界競争力ランキングで日本の順位が低下していることを指摘し、様々な課題を克服するための学びを得るには「スイスほど適した国はない」とコメント。

「スイスの人々は多言語を話し、モザイクのように豊かな多様性の中で暮らしています。こうした環境は、外国から訪れた者を決して『マイノリティー』にせず、個人の成長を促進してくれる」

「多様性こそがIMDの力。スイスのエコシステムがどのように経営イノベーションを起こし、その中でIMDがリーダー育成の役割を担ってきたか、ご理解いただければ幸いです」

続いて、IMDでEMBA・MBAのリクルーティングディレクターを務めるアンナ・ファルス氏が登壇。IMDで学ぶことのメリットや、75年にわたりビジネスリーダーを輩出してきた重厚な歴史について説明した。さらに、MBA・EMBAのアルムナイである川名英里、武田章男の両氏が登壇し、自らの留学体験でどのような啓発を受けたかを語った。

プレゼンテーションの後は、別室に移動してビュッフェ形式のディナー。参加者はスイス料理とスイスワインを堪能しつつ、活発にネットワーキング。乾杯の挨拶をしたEMBAプログラムディレクター、ヴァニナ・ファーバーIMD教授は「日本とスイスの絆の深さ、コラボレーションのさらなる可能性を感じさせる一夜でした。今後の留学を希望する方々、企業人事の方々、IMDアルムナイ……みなそれぞれが素晴らしく、多くの実りある会話ができたことを大変嬉しく思います」とこの会を振り返った