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私のIMD留学体験(第1回)
  ~MBA / 川名英里
(ユニゾン・キャピタル)

スイスのIMDには世界各地から多様な社会人留学生が集まり、MBAやEMBA(Executive MBA)の取得を目指す。日本からもこれまで企業派遣や個人参加など、様々な形で多くの留学生がその門戸を叩いた。彼らは現地でどのような学びや気付き、きっかけを得、出会いを経験したのか。また、それらを今のキャリアでどう生かしているのか。アルムナイ(卒業生)たちの体験談を、シリーズでお届けする。

 

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卒業パーティーの3次会で

日本の独立系大手プライベートエクイティファンド「ユニゾン・キャピタル」でESG(環境・社会・ガバナンス)・機関投資家対応を担う川名英里さんは、2020年1月から1年間、スイス・ローザンヌのIMDで学んだ。

留学したのは30歳になった直後。金融の世界で働くうちに興味を持った、インパクト投資を深く学ぶためだった。

「子どもの頃から国際協力に強い興味を持っていたんです。高校生の時には漠然と国連で働きたいと思うようになり、その後、世界銀行という組織が途上国でインフラ整備のような大規模な援助をしていることを知った。金融を通した国際協力や社会貢献を志すきっかけになりました」

学生時代にはインドネシアやケニア、エストニアなどでボランティアも経験。大学卒業後は野村證券に入社、IBD(インベストメントバンキング)でM&Aやエクイティでの資金調達を担った。だが、最初の数年間は「ほとんど記憶がないくらい」の激務。仕事の充足感を味わいつつも、20代はあっと言う間に終わろうとしていた。

「初心に戻り、より直接的な社会貢献をしたい。改めて学び直し、己のステップアップを図りたい」。退社して選んだ留学先は米英の教育機関ではなく、IMDだった。

「まず、授業の密度が違います。米英の大学なら2年間かけるMBAコースを、IMDは1年間に凝縮して提供する。そして何と言っても決め手となったのは、『リーダーシッププログラム』の独自性でした」

IMDでは心理カウンセラーと「リーダーシップコーチ」の2人が受講生1人ずつにつき、1年間を通して彼らと向き合う。彼女を担当したのはユング心理学のベテランカウンセラーだった。

「クラスでのプログラムや出来事を毎週振り返り、『その時、何を考えたか』『なぜそういう決断や行動をしたのか』といったことを彼女と深掘りしていく。時に幼少期の体験まで遡り、『無意識の背景』まで探求するんです。こうしたプロセスで、自分の知らない自分を知ることができました」

リーダーシップコーチの方は、より実践的なアドバイスをくれた。「プログラムの中でクラスメートと意見が対立した時など、そのプロセスを検証し、具体的な解決策を教えてくれた。コーチはプログラムの内容を熟知しているので、非常に実用的かつ有益でした」

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エコノミクスの授業で日本の経済状況を説明

 

川名さんが不得手としていたのは、コンフリクトマネジメントだ。つまり、組織やグループ内の意見の不一致にどうポジティブに対処し、問題解決を図るかということ。「昔から人と人との対立に巻き込まれるのが嫌で、自分の本音を人前で堂々と言うことができませんでした。その要因は過去の経験が複雑に絡み合っているとわかったのですが、2人との対話を積み重ねることで、自分の意見をしっかりと言えるようになった。彼らの心理面のサポートは、とても大きな財産になりました」

もう1つ、彼女にとってIMDを選んだ大きな理由は、スイス在住の投資家たちから直接話が聞けることだった。「インパクト投資が世界で最も進んでいるのがスイスなんです。そうした投資家に面会を申し込むにしても、IMDの学生だというとスッと時間を設けてくれる。いろいろな投資家から話を聞けたのは、本当に有意義でした」

今、川名さんはユニゾン・キャピタルで投資先のESG対応を推進する。社内ではパイオニア的存在だ。

IMD卒業後に選択したのは、やはり民間企業。巨大な公的機関にはない、「民間ならではの機動性の高さ」が大きなメリットだと感じている。

「投資というと、どうしても利益優先主義になってしまう。でも今の時代、企業はCO2排出量などの社会問題を無視できません。利益を追求しつつ、社会への貢献度も高めていく  −− 肝要なのは、投資を通じてどう我々が社会に貢献しているか投資家に伝える力です。まさしくこの点が、私にとってIMDでの最大の学び。投資家や投資先との折衝の場でも、『IMDのプログラムを経験したからこそ、今自信を持って話せている』としばしば実感します」

ところで、留学した2020年初頭は新型コロナウイルスが一気に世界に蔓延した時期だった。彼女も学び始めた直後の2月、ひと月の自宅待機を経験。それでも翌月には、すぐに対面授業が再開された。「1クラスは90人弱。少数精鋭主義だからこそ、早々と対面が実現できた。IMDスタッフの多大なサポートには感謝しかありません」

その後、プライベートでは5人までの集まりが許可されるようになった。「オフの時にはしょっちゅう、クラスメートの家に少人数で集まって食事会をしました。むしろその方が大人数で集まるよりも近い距離感で話ができ、各人と親密になれた。外出規制が解除されてからは、よく週末にスイス国内を一緒に旅行して、楽しい時間を過ごしました」

いま振り返ると、スイスでの1年間は「とても濃厚なものだった」と話す川名さん。「IMDに行かなければ達成できなかったこと、得られなかったことがたくさんあります」

そして留学時代にできた仲間は、「私にとっての大きな財産。コロナ禍という特殊な環境で、辛い時期を一緒に乗り越えた強い連帯感がお互いにある。彼らは通常の友人たちの、ワンランク上の存在という気がするんです」

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夏休みにブラジル人の友人と南スイスを旅行

 

川名英里 プロフィール

1989年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業後、野村證券に入社。IBDでM&Aやエクイティでの資金調達を担当。2020年、スイスのIMDで学びMBAを取得。2021年にユニゾン・キャピタルに入社、現在はインベスター・ソリューションズ・チームズでESG・機関投資家対応を担当する。