新型コロナウイルス感染症の流行で、世界中のリーダーが危機に直面しました。IMDも例外ではありません。混乱が続く中、ジャン・フランソワ・マンゾーニ学長は、経営幹部教育のDXを指揮し、リアルとバーチャルを統合させた経営幹部教育の再構築を短期間で実現しました。
リーダーシップの研究者でもあるマンゾーニ学長が振り返る、コロナ禍での変革の舵取りとは。11月7日、東京で開かれたイベントと講演からご紹介します。
収益「9割減」の危機から始まった
11月7日、マンゾーニ学長はアカデミーヒルズの会員制ライブラリー(東京都港区)で開かれた「激動の時代に変革をリードする」に登壇、当時を振り返るとともに、竹中平蔵・アカデミーヒルズ理事長とリーダーシップの定義や現実について語りました。
IMDでは、パンデミック前の経営幹部教育は対面講義が大半で、オンラインは10%程度でした。2020年初めに感染症の流行が広がると、キャンパスの閉鎖や出張の停止、講義のキャンセルが相次ぎました。
手を打たなければ収益の9割を失いかねない局面を、変革のチャンスと捉えたマンゾーニ学長。世界保健機関(WHO)の「パンデミック宣言」が出た3月、「向こう数カ月の予定が真っ白になった」のを機に、講義の再構築に踏み切りました。
「ブレーキとアクセルを同時に、かつ少しずつ踏むという、絶妙なバランスでした」**とマンゾーニ学長。講義に適したオンラインサービス選びやその使い方など、試行錯誤を経て、プログラムは、対面とオンラインを融合させた新しい形態に再構築されました。
「危機下では、なんとなくの合意ではいけない」
リーダーシップと組織行動の研究者でもあるマンゾーニ学長ですが、コロナ禍という危機下で、変革に向けた舵を自ら取ることになった時、鍵となったのが「コミュニケーション」でした。
まず、リーダーの姿勢です。
「トップチームは足並みがそろい、自信に満ちた存在であることが重要でした」**とマンゾーニ学長。そのために重要事項に関する議論と合意形成に、いつも以上に時間をかけたといいます。
「危機下では、なんとなくの合意ではいけないのです。スタッフは恐怖に怯え、自分自身やあなた、そして現状への自信を失いつつあるからです」
次に、前向きな雰囲気の醸成を挙げました。
職員が不安にならないよう、あえてやるべき仕事を与え、忙しくさせたとマンゾーニ学長。また、コロナ禍での投資を「未来へのチャンス」と捉える前向きさや、仲間と共に取り組んでいるという結束感の醸成を意識し、活力とインスピレーションの維持に努めたといいます。
最後に、重圧の中でも高い成果をもたらすための自己管理を挙げました。自身の感情面で支えとなったのが「マインドフルネス」と「思いやり」だったと振り返り、改めて危機下のリーダーの役割を語りました。
「激動の時代には、人々は自信を失い悲嘆にくれるものです。そんな時、リーダーは、悲しみ、不安や不満、時には絶望を乗り越えられるよう、手を差し伸べるべきなのです」
「危機を乗り切るだけでなく、危機後の世界に備え、より強い組織にしなければならないのです」
「偉大な指導者は、健全なシステムを残す」
講演後、竹中理事長と対談したマンゾーニ学長。リーダーシップの定義を改めて問われ「他者を通じて物事を成し遂げること」「そのリーダーがいなければ出せないような成果を出すこと」などを挙げました。
対談では、閣僚経験の豊富な竹中理事長から、政治領域での効果的なコミュニケーションのあり方についても質問が出ました。
それを受けてマンゾーニ学長が例に挙げたのが、燃料税の引き上げ方針を巡り、デモや暴動が起きたフランスの「黄色いベスト運動」。
混乱を招いた一因を「なぜ今このことを議論するのかという、コミュニケーションで大事な局面を(政府が)逃したため」とし、「大事なのは、手を打った場合と、打たなかった場合に起きうることを、ネガティブ、ポジティブ両面から語ることです」と話しました。
最後に「偉大な指導者」として、南アフリカの人種隔離政策の撤廃運動を主導し、後に同国大統領となったネルソン・マンデラ氏の名を挙げました。
「彼は国の実力者に働きかけ、よりまとまりのある国を作り上げました。偉大な指導者は、健全なシステムを残すものなのです」
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