IMDが年2回開催する5日間のグローバルリーダー育成プログラムOWP(Orchestrating Winning Performance)。
三井住友信託銀行では、2021年からIMDと連携し、シニア幹部向け「カスタマイズプログラム」を開始。同プログラムの一部として、世界の様々な企業の経営幹部と学ぶOWPも2022年から活用しています。
今年6月にローザンヌで開かれたOWPにも約10人の幹部を派遣。IMD教授陣や各国の参加者と対話を重ねたシニア幹部たちは、何をつかんだのでしょうか。参加者と人材育成の担当者に伺いました。
OWP(Orchestrating Winning Performance)
IMDが開く5日間のエグゼクティブ向け短期集中プログラム。毎年6月にスイス・ローザンヌ、11月にシンガポールで開催。5日間で100を超す講義や講演が開かれる。テーマはAI、デジタル、サスティナビリティ、リーダーシップ、人材育成など様々な領域に及ぶ。2023年6月のOWPには47カ国から約450人が参加した。
「突然言い渡された」プログラムへの参加
プライベートバンキング業務を日本で展開する部署で、管理職を務める五條為展さん。カスタマイズプログラムの受講者としてOWPに参加しました。
五條:カスタマイズプログラムへの参加を言い渡されたのは突然でした(笑)。数カ月間の長期研修への参加は初めてでしたが、自分の成長に関わるのだから前向きに捉えようと思い、参加しました。
海外の金融機関と連携する部署で働いていたものの、それまで英語を使う機会は正直あまりなく、業務の95%以上は日本語で済んでいたくらいです。とはいえ、もともと海外には憧れがありましたし、英語を使えたほうが仕事も視野も広がるだろうという気持ちもありました。
当初、IMDは名前くらいしか知りませんでした。でも社外の知り合いや同僚に話すと、かなり羨ましがられたのを覚えています。そんな場所に行けるのかと誇りに思いましたし、きちんと臨まないと、という気持ちになっていきました。
「1週間でどこまで学べるんだ」。戸惑いが確信に
五條:MBAだって1年、1年半をかけますよね。でも、OWPは1週間だけ。一体どこまで学べるんだろう。そんな戸惑いは、正直ありました。でも、実際に参加してよく分かりました。
ここは何かを教えてもらう場というより、受講者自身が何かインスパイアされる場なのだ、と。
五條:特に印象に残ったのは、Howard Yu先生の講義です。具体的なビジネスケースから抽象的な概念を引き出すことを繰り返しながら、インタラクティブに講義を展開されていました。
この講義で身に着けたことを、今すぐに具体的なアクションにつなげられるかはこれからの課題ですが、いくつかヒントを得ることができました。
問いとネットワーキング。「終わってからが勝負」
五條:先生方が私たちに投げかけてくる質問も、とても上手でした。すごくクリエイティブで、相手に考えさせる質問なんです。質問にはテクニックがあり、それが実はカギを握っているのだと感じました。講義に参加して終わり、ではなく、終わってからが勝負なのだと思いました。
五條:それから、参加者同士のネットワーキングを重視した講義になっているとも思いました。人と人がつながることでモノの見方が広がることを、とても意識したものになっていると感じました。
「リーダー像」の変容
OWPでは主に、リーダーシップをテーマに据えた講義に参加したといいます。
五條:というのも、海外の金融機関と共同でビジネスをすすめるなかで、一部で衝突が起きたり、組織を引っ張っていくのが難しいと感じたりすることが何度かあったからです。そうしたことへのヒントを、講義で得られたらと思ったのもあります。
それから最近話題の「AI」「アジャイル」というキーワードを、もう少し深掘りしようと関連の講義も選びました。
講義に参加する中で、五條さんは、普段のマネジメントを顧みるようになったといいます。
五條:日々の業務では、限られた時間のなかで結果を求められることが多いのですが、振り返ってみると、自分から部下に答えを言ってしまう「コマンド・アンド・コントロール」(指示を出してその通りに動くよう求めるマネジメント)に注力することが多かったと思います。
手の届く範囲での業務に関する情報は自分が詳しいですし、答えを知っている立場でもあります。ですが、よりハイレベルの役職に就いたら、自分では答えが分からないけれども、組織を率いていかなければならないことも出てくると思います。
そうなると「コマンド・アンド・コントロール」というより、部下のやる気を引き出す方に切り替えなければならない。その意味で、もう1段階レイヤーを上げたマネジメント、リーダーシップが必要だと感じました。
どうすればみんなの意見を引き出せるのか。どうすれば「やりたい」という気持ちを高めてもらえるのか。OWPの講義から、そのヒントをもらったと思っています。
人材育成担当「業務問わず、グローバルな視座を」
シニア幹部のカスタマイズプログラムのパートナーに、IMDを選ぶ理由は。同社人材育成担当の匠智子さんは「グローバルな視座」を挙げます。
匠:当社では「フューチャーレディネス」(未来適合力)で必要なものとして、グローバル、デジタル、ESGの3つを掲げています。
このプログラムが始まる2021年より前は、海外業務に従事する方以外は、グローバルな環境に触れる機会は、それほど多くはありませんでした。
ただ、世界がシームレスになり、スピードも求められるようになる中、これからの経営陣は、担当業務を問わず、グローバルな視座が重要になってくると考えています。その醸成のために、IMDと連携し、当社にあったカスタマイズプログラムを作りました。
三井住友信託銀行のカスタマイズプログラムは、英語のブラッシュアップから始まり、足掛け1年間の長期プログラムです。
匠:研修当初の3カ月間は英語を自習して、TOEICを受験するなど基礎力を高めた後、さらに5カ月~6カ月間の、ネイティブスピーカーとのディスカッションやワークショップを設け、OWPのセッションを聴講、議論に参加できるだけのスキルを身に着けてもらいます。
プログラムの初めのころは、この研修は英語の勉強のためなのだと認識している方が非常に多かったと思います。ただプログラムの全体像を知るうちに、経営に生かせる感覚の醸成が求められているのだと理解してくださいました。
英語の基礎力を上げた後は、IMDの一條和生教授がコーディネートしてくださる当社向けカスタマイズプログラムのモジュールに移ります。
OWP開催1カ月前に、OWPで実際に講義をする教授から遠隔講義をしていただき、OWPとはどんな感じなのか、どんな話が聞けるのかを事前に経験していただきます。
また、参加中のディスカッションや交流がより深いものになるよう、演劇のテクニックをビジネスでのコミュニケーションに応用した体験型研修も受けます。
そして6月のOWPに臨みました。参加者は自分で設定したテーマに沿って講義を選び、受講します。OWPの前後にも、現地で一條和生教授を含むIMD教授陣から、当社の参加者向けに講義をしていただきました。
匠:OWPで得た成果は、帰国して約3カ月後に開かれる Must-Win Battleという社内プレゼンテーションで披露します。グループ単位で新しい戦略や課題解決のためのアイデアを、英語で20分間、役員に提案するというものです。
OWPに参加した当社の幹部は、各国の様々な企業の参加者から様々な「気づき」を得ながら、世界のリーダー達に日本のことも積極的に伝えて下さっているのだろうと思います。弊社の経営陣になっていっていただく上で、目線を国内にとどめず、グローバルな視座を持っていただき、会社を動かしていってほしいと思っています。
OWP2023 Lausanneの開催各日の様子はこちら
https://imd.wistia.com/medias/so7o9o3t9w